腰痛

腰痛とは、腰部から背部に起こる急性又は慢性の痛みを伴う疾患を総称するものであり、その発症は、筋骨格由来・内臓由来・心因性由来があります。
ここでは、その中でも筋骨格由来の腰痛を主に話を進めていきます。
 
一生の間に60~90%の人間が経験すると言われている腰痛症ですが、400万年前に人類の祖先が四足歩行から二足歩行へと進化していった際に、体幹の負荷が腰椎下部の前彎による剪断力として増大したことによる骨格上の宿命のようなものです。
 
また、現代の人間の生活スタイルや働き方も、立位から座位へ変化し、体幹周囲筋の筋力不均衡や筋力低下、猫背などの不良姿勢の原因が腰痛発症に拍車をかけています。
 
発症を年代別にみますと、若年層では20%の小中学生に腰痛が発症しており、この年代では、椎間板障害が多いです。
60歳頃に発症のピークを迎え、50~60%の方が腰痛を経験しています。
生涯発生率では、男性が50~70%、女性が60~80%と言われています。
 
MRIなどの画像診断によりますと、20~30歳代は椎間板の一部亀裂や軽度の椎間関節包の炎症のみであることが多いです。
 
30~60歳の中壮年期には、椎間板の変性進行と椎間関節症の進行が主体になります。
脊柱の不安定性による腰部の痛みで、症状は強く深部の腰痛や根性疼痛になります。
 
60歳以上の高齢者では、椎体の骨棘形成や椎間関節の変形・肥厚が生じ、脊柱の不安定性は減少してくる一方、脊柱管の狭窄が起こってきます。
 
ここで一言申し上げておきたいことは、必ずしもX線的変化が腰痛症状を引き起こすとは限らないということです。逆に、レントゲン上で異常がみられなくても、腰痛を強く感じる場合もあります。その場合は、主に筋肉性から腰痛が発症していることが多いです。
 
腰痛発症の機序としては、脊柱周辺の侵害受容器は機械的及び化学的刺激を受けてP物質(サブスタンスP)を出し、これが痛みを引き起こします。
これらの刺激が起こると、プロスタグランジンなどの炎症関連物質が刺激部位から遊出し、これが刺激し合ってさらに痛みの感受性が上がってきます。
 
椎間板ヘルニアの場合、神経根への圧迫という機械的刺激と、化学的刺激による痛みの2種類が混在します。
 
豊富な知覚神経が分布している椎間関節も侵害受容器をもっており、関節の変形や滑膜炎の炎症時に、上記と同様の機序で痛みが起こります。
 
筋性の痛みの場合、筋の機能不全が生じると侵害受容器を介して同様に痛みの伝達が起きたり、凝りから低酸素状態になり、筋スパズムを生じて筋性疼痛を起こします。
 
鍼治療は、ぎっくり腰のところで述べた筋肉を中心に鍼治療を行っていきますが、急性腰痛とは違い、長年少しずつ負担が蓄積して慢性腰痛に移行してきていますので、治っていく過程も悪くなっていった逆の過程をたどりながら徐々に良くなっていきます。
ぎっくり腰よりも、改善するのに時間・回数がかかる場合が多いです。
 
まずは最低週に一回の治療ペースで、4~5回は連続して鍼治療を受けていただくことをおすすめいたします。
最初はたたみかけて鍼治療をすることにより、身体が改善しやすく元の悪い状態に戻りにくくなります。症状が改善してきましたら、治療の間隔を徐々にあけていきます。